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アパルトマンでひとり暮らし(エレベーター)
パリの現在の街並は、19世紀にナポレオン3世とセーヌ県知事オスマンによって形作られたものが基礎になっている。
凱旋門を中心に放射状に伸びる大通りや、窓の位置や高さの揃った建物など、街の景観の美しさは、おそらくこの先、何度パリを訪れても色褪せて見えることはなく、訪問の度に目を楽しませてくれるに違いないと思う。
ある年のパリ滞在時。
私は、ホテルに宿泊せず、旅行者向けのアパルトマンを利用した。隣りの部屋には一般のフランス人が住んでいる、パリではごく一般的なオスマン様式の建物の一室である。
部屋は7階、つまり最上階だった。
幸い、小さいながらもエレベーターがついていた。人が一人乗って、スーツケースを入れたら、いっぱいになってしまうような、本当に小さなエレベーターである。その狭さを何かに例えるなら、最近数が減っているが、日本の「電話ボックス」くらいだろうか。いや、電話ボックスよりも小さかったかもしれない。
扉は二重になっている。エレベーターの内側の扉は辛うじて自動、フロアに面した扉は手で押すようになっている。この手動扉が重い。あまりに重くて、片手で軽く押すくらいではびくともしない。肩から上半身全体を使って押し開ける。
大きな荷物を抱え、狭さゆえに方向転換も出来ずにノロノロしていると、建物中に響きわたるような大きなブザー音が鳴り響く。「もー分かったよ!分かったから静かにして!」となだめたくなる。
昇降スピードは、当然ながら、超スロー。歩いて上がるよりは早いかな、という程度である。
ガタガタと今にも止まりそうな大きな音を立てながら動く。
日本では、探してもこんなエレベーターはなかなか見つからない。
近未来的でスマートな日本のエレベーターは、まるで宇宙船のようだと思う。
狭くて重くてうるさくて、そして薄暗いエレベーターが、最初は少し怖かった。
「これに乗るの? 大丈夫?」とここを利用する旅行者なら誰しも思うだろう。
それでも、エレベーターはあるだけで有難い。古い建物をそのまま現在も利用しているパリでは、エレベーターなしの物件も珍しくはないのだ。
ホテルなら、エレベーターにしても他の生活備品にしても、ここまでの年代物はあまりないと思うが、一般のアパルトマンを利用すると、なかなか面白い体験ができる
。初めてのパリ旅行の人にはあえて勧めないが、パリ好きの方には、アパルトマン暮らしを是非一度経験してもらいたいと思う。
パリは決して、おしゃれでステキなだけの街ではない。
そういう側面も確かにあるけれど、効率の悪さや不便さが至る所に残る都市である。
でも、しばらくすると、それが心地良く思える瞬間がくる。宇宙船のようなエレベーターがなくたって、問題なく生きていける。
むしろ、これくらいでちょうど良いと思えてくる。
パリは、古いものと新しいものが共存する街。
滞在が終わる頃、轟音と共にゆっくり動くエレベーターに、私は愛着さえ感じていた。
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