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夏休みの自由研究に美術展鑑賞を利用する方法 〜ルーヴル美術館展2013の場合〜
2013年7月20日から開催されている「ルーヴル美術館展〜地中海四千年のものがたり」を観てきました。
そこには、子どもたちにも楽しんでもらおうとする配慮がいくつか見受けられました。
おそらく、会期が夏休みの期間にあたっていること、生活に根ざした身近な工芸品(食器や化粧道具、オリーブオイルの壷など)や、出土品(棺桶、古い文字の入った石碑)など、子どもが観ても比較的理解しやすい展示があることなどが理由ではないか、と思います。
そこで、私なりに、この美術展の内容と自由研究のテーマをのつながりについて考えました。お子さんと美術館に行くことについて思案中の方のご参考にしていただければ幸いです。
美術展そのものに関するレヴューは、以下のページをご覧ください。
▶ 絵のはなし「ルーヴル美術館展〜地中海四千年のものがたり」を観てきました!@初日
選べる音声ガイド・・夏休みの子どもたちにも楽しい企画
この展覧会では、音声ガイドが2種類ありました。
ひとつはアナウンサーの住吉美紀さんナレーションの大人用。もうひとつは、「パリスくん」と「ディアナちゃん」というキャラクターが会話形式で説明してくれるジュニア用です。
どちらも、料金は500円ですが、ジュニア版は中学生以下が借りる場合に限って 400円になります。
大人向けは25作品・全40分の解説、ジュニアは16作品・全30分です。
私は今回、ジュニア向けの音声ガイドを聴いてみました。
だいたい小学校5〜6年生以上を対象にしているような印象を受けました。
平易な言葉で学習アニメ風の雰囲気で会話が進んでいくのですが、地中海、ローマ帝国、ギリシア神話などのキーワードがを全く知らないと「?」マークが飛び交ってしまうかも・・。
しかし、この美術展に行ってみたいと思う時点で、そういう世界に興味を持っているということでしょうから、10歳前後〜で、本人が希望するのであれば、とりあえず借りてみると何かしら得るものはあると思います。
◎音声ガイドを借りた場合の注意点
音声ガイドには全部の作品の解説があるわけではありません。ガイドを借りると、どうしても、説明があるものだけに注目するようになりがちです。
重要作品に絞って解説を付けているので、ガイド有りのマークに注目するのは、ある意味では効率的な鑑賞方法なのですが、その前に「自分のアンテナに引っかかるものは何か」という感性も、大事にして欲しいと思います。
音声ガイドの他に、子ども向けの解説(ジュニア・ガイド)も入口付近に用意されています。
子どもと一緒に美術展を楽しむコツ
今回のルーヴル展に関していえば、270点を超える非常に多数の展示品が並んでいます。相当ボリュームのある内容で、美術好きな大人でも、全編を集中力を切らさずに鑑賞するのは難しい量です。作品数が多いうえに、大混雑も予想されるので、全部を同じ比重で観ることは、最初から考えない方が良いでしょう。
もし、お子さんを連れて行くならば、「一応、全部見るようにはしたいけれども、今日はその中でも特にこの章に注目しよう」という感じで、ある程度のアタリというか、メリハリを付けることをおすすめします。
今回の場合なら、例えば、ギリシアの壷なのか、十字軍の時代の交流によって生まれた工芸なのか、クレオパトラに関するあれこれなのか、ローマの彫刻なのか、ナポレオンのエジプト遠征がもたらした東洋ブームなのか。
公式サイトなどを利用して、引率者が事前に下調べをしておくことは大事です。
公式サイトにも、全作品が載っているわけではありませんが、全体の構成は分かります。
▶公式HP:ルーヴル美術館展 地中海四千年のものがたり
「せっかくお金を払って入場したのだから、全作品をひとつ残らずしっかり観ましょう!」という鑑賞スタイルは、美術館が嫌いな子を増やしてしまうので 止めましょう。
時間的には最長でも2時間が限界だと思います。1時間程度で切り上げるつもりで、ちょうど良いのではないかと思います(もちろん、その子の年齢や性格や興味の強さによって大きく変わります・・)。
美術展における自由研究テーマの設定例
私が引率者なら、こういうテーマを提案するという例を、具体的に 3点ほど考えました。
ただし、これらはあくまでも例であって、実際にこれで自由研究が成立するかどうかは保証できませんので、ご了承ください。
高学年向けの内容なので、お子さんの興味や年齢によって、変化させてください!
◎その1:古代の品の素材に着目してみる
展示品そのものを観ることはもちろん大事ですが、そばに表示されている情報(年代や地域や素材)も確認するようにしましょう。いろいろな気付きがあるはずです。
例えば、ギリシアの壷には、テラコッタ(素焼き)が多いです。テラコッタとは一体何で、どんな特徴があるのでしょうか。それは現代にもあるのでしょうか。
エジプトの工芸品には、方解石や象牙が使われています。トルコの工芸品には、色のついたガラスが使われています。これらの技術はどこで生まれて、どうやって広がっていったのでしょうか。
他にも、大理石、玄武岩などの鉱物、レバノン杉を一本まるごと使用した木の棺桶など、その土地ならではの素材を使った出土品があります。
理科の得意な子、あるいは地理が好きな子なら、何かしら興味を持つ点が見つかるのではないかと思います。
◎その2:各民族の神様について探求してみる
今回の展覧会では、ギリシア人とエジプトの神々の関係についての展示があります。
エジプト侵略後、ギリシア人はエジプトの神をギリシアの神に対応させることで、普及を図りました。オシリスの妻「イシス」は、ギリシアでは有名な愛の女神「アフロディテ」と関連づけられましたし、牛神「アビス」は、「セラピス」として表現されました。
それ以外の神はどうでしょうか。このような例は、他の地域でもあったのでしょうか。
また、この件とは、ちょっと話が違うのですが、ギリシア神話の愛と美の女神「アフロディテ」が、ローマ神話では「ウェヌス(英語読みでヴィーナス)」に、ギリシア神話の月の女神「アルテミス」が、ローマ神話では「ディアナ(ダイアナ)」であることは、知ってる人は知っているのですが、大人でも知らない人は一定数いらっしゃいます。
ギリシア神話の神様の名称、ギリシア名に対応するローマ名(および英語読み)の一覧、また、その神様が何を司っているかなどを調べてみると面白いかも・・。そもそも、ギリシア神話とローマ神話の違いは何なのか、とか。
どれも、インターネットを使えば簡単に調べがついてしまう情報ですが、今回、有名どころの神々数名が描かれた壷や、絵画や、彫刻作品を実際に見ることができます。単に資料を写して終わりではなく、何かしら自分なりの感想を追加できると思います。
(注意:神話の登場人物たちは、性に対してかなり奔放です。本を参考にする場合、例えば、図書館の子どもコーナーにあるような本なら、うまく編集されていると思いますが、一般向けの美術書などは、色事満載なのでご注意ください。)
◎その3 ナポレオンのエジプト遠征がもたらしたもの
終盤に、ナポレオンのエジプト遠征によって、西洋世界に起こった、エジプトブームに関する展示があります。
地中海テーマの美術展でナポレオンが登場することに、意外な印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、西側と東側の文化交流という視点で捉えると、前半からの流れを汲んでいることが分かります。
ナポレオンは、エジプト遠征(簡単にいえば侵略)には、一層の情熱をかけていて、兵士だけでなく、あらゆる分野の学者や芸術家を同行させていました。軍事的には失敗でしたが、この学術調査が、フランス、ひいてはヨーロッパに新たな流行を生むことにつながります。
このテーマは、歴史、美術など複数の方向からのアプローチが可能です。
もし、このコーナーに展示された品に興味が湧くなら、そこを糸口に、ナポレオンのエジプト遠征以外の、勝利と敗北の歴史について調べても面白いですし、ナポレオンが軍事的勝利以外にもたらしたものについて調べるのもおすすめです。資料は、図書館でも本屋さんでも、たくさん見つかるはずです。
あまり入り込みすぎると、小学生にとっては、複雑なテーマにはなると思いますが・・。
(参考記事:アンヴァリッドー軍事博物館とナポレオンの墓所 / 絵のはなし ナポレオン一世の戴冠式 )
* * *
この美術展では、このコーナーより先にも、地中海という海を介して農産物や工芸品が行き交う交易についての展示や、十字軍により西側と東側の文化交流の復活についての展示がありました。
この美術展のテーマそのものである地中海をとりまく世界の交流という大きなテーマに取り組むことも、面白いと思います(一層複雑にはなりそうですが・・)。
美術館に行くときの諸注意
この夏、美術館デビューを果たすお子さんがいらっしゃいましたら、ぜひ基本マナーを教えてあげてください。
◎メモをとる場合
展示室の中で使って良い筆記用具は、鉛筆だけです。ペンのインクが万一飛んで作品を汚すのを避けるためです。
シャープ・ペンシルは、理論上 OKですが、第三者から見て、一瞬でペンと見分けがつきにくいので、余計なトラブルを避けるためにも、鉛筆を使う方が良いでしょう。
世界中の多くの美術館で共通のルールです。
◎撮影は禁止
写真やビデオ撮影は禁止です。
日本の美術館でも常設展(その美術館が所蔵している作品展示)では、フラッシュなしという条件つきで写真撮影が許可されていることもあります。
しかし、今回もそうですが、「なになに美術館展」のような「企画展」では、一切の撮影が禁止されていることがほとんどです。
◎室温に注意
美術館は、作品保護のために、温度も湿度も低めに保たれています(ついでに言うと、照度も暗めです)。
真夏でも、むしろ真夏こそ、羽織れるものを一枚持って行きましょう。
今回のルーヴル展も、冷え性の私には、かなり寒かったです。
なお、お手洗いは、展示室内にもあります。
◎大きな荷物はロッカーへ。100円玉を必ず持参!
大きな荷物があれば、入場前にロッカーに入れましょう。日本ではほとんどの美術館に、コインロッカーがあります。100円硬貨を入れて預けます。使用後に硬貨は戻ってきます。
大きな荷物を持った状態での鑑賞は、まず、自分が疲れます。
それだけなら まだ良いのですが、他の人の迷惑にもなりますし、最悪の場合、混雑する展示室内で展示品やケースに傷をつけるなどのトラブルに発展する恐れがあります。
貴重品以外はロッカーに入れて、身軽になって鑑賞しましょう。
冬場の、かさばるダウンコートなどもロッカーに入れた方が無難です(暑くなって手に持つことになるので)。
ちなみに、海外の美術館などで、ロッカーがない場合は、クロークがあるはずです。スーツケースなどを持ち込もうとすると止められます。
このページのまとめ
左の写真は、パリ・ルーヴル美術館内の様子です。パリの美術館では、こんな風に、子どものグループが先生に引率されて、作品を鑑賞している場面によく出会います。かなり小さな子どもから、高校生くらいまで、年代も様々です。
この写真の時は、先生が何か質問 → 生徒たち挙手 → 指名された生徒が前に出て、絵について述べている というところでした。
美術館で楽しむ時間を持った子どもは、自分の未来の選択肢をいくつか増やすことが出来ると思います。このような場面は、日本ではあまり見かけない光景ですが、それでも最近は、子ども向けの資料を用意している美術館も見られるようになってきました。
何かの美術展をきっかけに、美術に親しみを持ってくれる子が増えたらいいなと思います。
▶美術展情報のサイト(外部サイト):展覧会スケジュール|美術館・アート情報
楽しい夏休み&美術館デビューになることを祈っています!
*関連記事:「ルーヴル美術館のまわり方」 / 東京都美術館「ルーヴル美術館展 2013」レヴュー
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