HOME > 絵のはなし トップ > 「ルーヴル美術館展〜地中海四千年のものがたり」レヴュー
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ルーヴル美術館展 地中海四千年のものがたり(2013.7.20〜)を観てきました
フランス・パリ「ルーヴル美術館」の所蔵作品37万点の中から、「地中海」をテーマにした作品273点を展示した美術展。
7/21 初日に観に行ってきましたので、感想などを書きます。
会期:2013.7.20〜9.23
会場:東京都美術館(上野公園内)
入場料:当日券(一般)1,500円/中学生以下は無料
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展示内容と構成について
〜美術展の紹介文より抜粋〜
◎ルーヴル初のテーマ「地中海」
古代よりエジプト文明やエーゲ文明が、後に西洋の古典の礎となるギリシア・ローマ文明が誕生した地中海。ルーヴルにはこれらの文明の遺産が集積されています。西洋と東洋の文化が交差する場でもあった「地中海」をテーマに、古代から19世紀までの四千年に及ぶ旅に誘います。
◎「全8部門すべてから出品されるルーヴル美術館オリジナルの展覧会」
ルーヴル美術館の(1)古代ギリシア・エトルリア・ローマ美術、(2)古代エジプト美術、(3)古代オリエント美術、(4)イスラム美術、(5)絵画、(6)彫刻、(7)美術工芸品、(8)素描・版画、全8部門から、総力を挙げて「地中海」をテーマに企画。200点を超える多彩な作品で地中海世界をご紹介します。
(抜粋 以上)
ルーヴル美術館の所蔵品は37万点にのぼります。絵画や彫刻作品の豊富な、ごく一般的な意味での美術館でもありますし、考古学的な歴史博物館という側面もあります。また、王家の宝飾品や工芸品などのコレクションを所蔵する記念館的な面もあります。
「ルーヴル美術館」の所蔵作品から選りすぐった作品を展示する美術展は、毎年のように(もしくは一年おきくらいに)、日本のどこかの美術館で開かれています。しかし、このような、時代や地域、アイテムの枠を超えて、ルーヴルの全部門から出品するようなテーマ作りは、今までにないものです。
パンフレットには、 「作品展示数は200点を超える」と記載されていますが、私が当日もらった作品リストには、273までのナンバーが振ってありますので、実際は「270点超え」です。
一般的な絵画中心の美術展では、平均で70〜90点くらいの作品が展示されます。100点出ていれば多い方なので、今回は細かい工芸品や出土品が多かったにせよ、相当ボリュームのある内容だと言えます。
実際、私もかなり疲れました。
「ルーヴル美術館展2013」鑑賞 全体を通して感じたこと
「地中海」に関する展示ということで、私は漠然とギリシア彫刻中心の展示をイメージしていましたが、実際は、地中海を取り巻く沿岸の都市の交流に焦点を充てた多面的なものでした。
古代エジプト、エトルリア、ローマ美術、古代オリエント、イスラムなどの地域が「地中海」というキーワードで結びつき、作品も、彫刻あり、工芸品あり、油彩あり、素描あり、と多彩です。
一貫して、地中海をとりまく西欧と東洋の異文化の交流がテーマです。
古くは、海上貿易によって、中世には十字軍の遠征によって、近代には、ナポレオン軍のエジプト遠征がもたらしたエジプトブームによって。いつの時代も、人々は異なる文明から学びを得ていたということが示されます。
東洋に神秘的なものを感じていた時代の西洋の文化を紹介すると同時に、東洋に持ち出された如何にもヨーロッパ的な工芸品も並べられていて、どちらかの一方通行ではなく、異文化に対する憧憬はどこにでも存在したことを教えてくれました。
このような、壮大で、且つ具体的な切り口の美術展を構成するにあたって、全ての展示品が「ルーヴル美術館」が所蔵する作品だけで成り立っているということも、改めてルーヴルの規模の大きさを知らされる驚きのひとつでした。
古代ギリシアの美の規範や神話や文化は、後々まで西洋美術全体に多大な影響を残して行くことになる 非常に重要な分野です。今回の美術展が、仮にギリシア美術のみの展示だったとしても、かなりの充実感を味わうことになったはずですが、単なるギリシア美術の紹介という枠組みには全くおさまらない、もっとずっと大きな視野から歴史と美術を認識する機会を与えてくれた、非常に興味深い美術展でした。
選べる音声ガイド・・夏休みの子どもたちにも楽しい企画
展覧会のスタートが 7月20日〜と、夏休みの期間にあたっていること、生活に根ざした身近な工芸品や、出土品などがあることなどがおそらく理由だろうと思いますが、子どもたちにも楽しんでもらおうとする配慮がいくつか見受けられました。
音声ガイドは、2種類あって、ひとつはアナウンサーの住吉美紀さんナレーションの大人用。もうひとつは、パリスくんとディアナちゃんというキャラクターの会話形式のジュニア用です。
大人向けは、25作品・全40分の解説が収録されているのに対し、ジュニア版では16作品・全30分の解説と、内容も異なります。
音声ガイドが2パターンある美術展というのは、今まで私が知る限りで、初めてです。
私は、事前に公式サイトで「ジュニア向け音声ガイド」の存在を知り、ぜひジュニア用を借りてみようと思っていました。
当日、会場入口の音声ガイド貸出しスペースで、列に並んでいたら、大人用を手渡されました(当たり前ですね…)。「あのー、ジュニア用を聴いてみたいんですけど・・」とお願いして、変更してもらいました。
平易な言葉を用いて、学習アニメ風の雰囲気で説明してくれます。大人も楽しめると思います。ローマ皇帝ルキウス・ウェルスの妻ルキッラを、おばさん呼ばわりしてたのには、苦笑だったけど・・。
これだけは予習しておきたい「ギリシャ神話」
駅などに設置されている看板広告でも、「ギャビーのディアナ像」が前面に出ています。「地中海」というキーワードもありますし、ギリシア彫刻中心の美術展だと思っている人も多いのではないでしょうか。この展覧会は、先にも記述しましたが、実際は多彩な内容で、ギリシア神話だけを扱っているというわけではありません。
それでもやはり、ギリシア神話に関する知識があった方が、より楽しめること確実です。ギリシア神話やギリシア時代の美の規範は、ギリシアだけで完結したものではなく、その後の西洋美術全般に長い間影響を与え続けているからです。
「ギリシア神話 → よく分からない」とスルーしてしまうと、せっかく鑑賞に出かけても楽しみが半減します。逆に言えば、概略だけでも知っていれば、楽しさ倍増です。
とは言うものの、ギリシア神話全てを一気に制覇しようとすると、膨大な時間が必要ですし、馴染みのないカタカナの人名や地名は覚えにくいので、脳が拒否反応を起こしがちです。
今回の展覧会を鑑賞するにあたって、特に知っておくと良いのは、「エウロペの略奪(掠奪)りゃくだつ」と「パリスの審判」です。
また、この2つほど有名ではないかもしれませんが、「ネッソスの殺害」も、今回大きめの絵画が展示されているので、押さえておきましょう。
きっと、「あーこれか〜!」と思う瞬間があるはずです。
エウロペの略奪(掠奪/りゃくだつ)
フェニキアのテュロス王アゲルの娘「エウロペ」に恋した全神ゼウス。
エウロペが侍女たちと海辺で遊んでいるところへ、白い牡牛の姿に変身して近づきます。
そばに来て大人しく座っている牡牛に慣れ、やがて気を許したエウロペは、その背中に乗ってみます。
すると牡牛は、たちまち立ち上がって地中海に走り出し、背にエウロペを乗せたまま、波間を泳ぎ抜けてクレタ島まで連れ去ってしまいます。
そして、本来の姿に戻ったゼウスはエウロペと交わり、3人の子を設けます。
エウロペが牡牛に乗ろうとする場面
、
連れ去られるエウロペを見た侍女たちが騒然とする場面、
勢いよく波間を進む牡牛とその角にしっかりつかまるエウロペ
など、美術作品の中にはこの主題のさまざまな場面が取り上げられています。
「エウロペ」は、ヨーロッパの語源です。
* * *
今回の展覧会では、入場してすぐのギリシア時代の壷と、展示後半の工芸品に見られます。
特に後半の展示では、絵皿や懐中時計など、16〜18世紀頃の貴族の愛用品にこのテーマが好んで使われたことが示されます。この頃のヨーロッパの富裕層にとって、ギリシアの神々や英雄たちの恋愛を巡るストーリーは、憧れの地中海を連想させる人気のあるテーマでした。
ネッソスの殺害(転身物語)
ヘラクレスとその妻ディアネイラが、旅の途中である川にさしかかります。川では、ケンタウロスのネッソスが、渡し守をしていました。 ディアネイラを渡している時に、ネッソスは彼女を連れ去ろうとしました。すでに岸に着いていたヘラクレスは、毒の弓矢を放ってネッソスを倒し、ディアネイラを助け出しました。
ケンタウロスは、上半身が人間、下半身が馬の姿をした種族です。ケンタウロス族は、一般的に粗暴で好色とされ、人間と獣の半ばの存在であることから、原始的で野蛮な生き物とされています。 「ネッソス」とは、ケンタウロス族の一人です。
「ギリシア神話の英雄ヘラクレスの妻、ディアネイラを掠奪するケンタウロスのネッソス」
この作品で、まず目に入ってくるのは、ケンタウロスの後ろ姿と、抵抗するディアネイラと、画面手前で倒れている川の神です。暴れる姿は、荒れ狂う川の様子でもあります。
主題としては、「ネッソスの殺害」と呼ばれますが、展示作品横の作品タイトルを見ると、「ギリシア神話の英雄ヘラクレスの妻、ディアネイラを掠奪するケンタウロスのネッソス」となっています。
そのため、川でネッソスのしっぽをつかんで、おぼれそうになって倒れている色白の男性が、ヘラクレスなのかと思ってしまう人もいるかもしれません。
しかし、ヘラクレスは、ギリシア神話の全登場人物のなかでも、もっとも逞しく力強い存在です。ネッソスに負けるなど、あり得ません。
多くの美術作品の中では、ヘラクレスは、弓矢(または棍棒)を持った 筋骨逞しい男性像として登場します。エピソードの詳細までは知らなくても、このポイントさえ掴んでいれば、この作品の場合では、画面の奥で今まさに、弓を引こうとしている男性がヘラクレスだと分かるはずです。
パリスの審判
ある時、英雄ペレウスと女神テティスの結婚の宴が盛大に開かれました。
「争いの女神・エリス」一人だけが、招待されませんでした。
怒ったエリスは腹いせに、「最も美しい女へ」と記された黄金のリンゴを宴席に投げ入れます。
その場にいた女神たちは、このリンゴを奪い合って争いになりました。最後まで、譲らなかったのは、「ヘラ」「アテナ」「アプロディテ」の3人でした。
3人の女神は、決着をつけるために、最高神ゼウスに判断を求めます。しかし、誰からも恨みを買いたくないゼウスは、自らは判断せず、審判役をトロイアの王子「パリス」に押し付けました。
女神たちはそれぞれ、自分を選んでくれたら、御礼に贈り物をするとパリスに申し出ます。
ギリシア女神の最高神でゼウスの妻でもある「ヘラ」は、「パリスをアジア全土の王にする」と言いました。
アテナは、知恵と戦いの女神。パリスに「絶対に負けない武力を授けます」と言いました。
アプロディテは、愛と美の女神。「ギリシアで最も美しい女性・ヘレネをあなたの妻にしてあげましょう」と言いました。
パリスは、権力でも武力でもなく、美女(とその愛)を迷わず選び、アプロディテに黄金のリンゴを渡しました。
ギリシアで最高の美女ヘレネは、このときすでに、スパルタ王メネラオス王の妻でした。
アプロディテは、パリスとの約束を果たすため、魔力を使ってヘレネが夫を忘れ、パリスを愛するように仕向けて、連れ去ります。
妻を奪われたスパルタ王は激怒し、この後、「トロイア戦争」に発展します。
「トロイアの王子パリスに、スパルタのヘレネを引き合わせる愛の女神ヴィーナス」
3人の美しい女神が登場するこの主題は、西洋美術の中でも、特に好まれ、よく描かれます。
ここで、展示されている作品(ハミルトン作)は、アプロディテがヘレネを連れて現れ、パリスに引き合わせようとしている場面です。ヘレネのあまりの美しさに魅了されたのか、パリスは ぼうっとした表情をしています。
ミュージアムショップの様子と展覧会図録
展覧会図録は2,300円。
表紙は、シャセリオー作「バルコニーにいるアルジェのユダヤ女性たち」。地中海をテーマにした展覧会図録にふさわしい、美しい水色が印象的です。
実際の展示では、外観しか見ることの出来なかった、工芸品の内側や、裏側なども見ることができます。
現在のルーヴル美術館館長であり、今回の展覧会の監修を行ったジャン=リュック・マルティネズ氏はじめ、いくつかの論文は、どれも長文ですが、地中海を取り巻く世界の交流の歴史を切り口を変えて解説したものになっています。
展示終了地点に設置されているミュージアムショップでは、定番の品々が販売されています。ポストカード、出展作品をデザインした文房具(クリアファイル、しおり、一筆箋、ノート)や、ハンカチ、てぬぐい、Tシャツ、など。キーホルダーや、トランプ、マグネットなどもありました。
フランスのお菓子(チョコレートやクッキー)、ゲランの塩など、フランスの一般的なおみやげ品があるのは、フランスの美術館関連の展覧会ではいつものことですが、今回は地中海がテーマということと関連してか、オリーヴオイルやマルセイユ石けん、練り香水などもありました。
ルーヴル美術館展〜地中海四千年のものがたり〜混雑状況
私は、会期初日の午前中から観に行きました。初日から、けっこうな混雑ぶりでした。
歩けない・見えない、というほどではなかったのですが、決して「空いている」とは言えないくらいの人がいました。土曜日で、夏休みも始まったところだったため、親子連れの姿も見られました。
また、この日はルーヴル美術館館長・ジャン=リュック・マルティネズ氏の、記念講演も行われることが告知されていたため、それを目当てに初日を狙ってきた人も多いと思います(私もそうです!)。
おそらく、今後も「空いている日」というのは、ないと思います。少しでも混雑を避けたかったら、可能な限り、早めに行くこと。もし選べるなら、土日よりは平日の方が良いでしょうし、金曜日の夜間開館も狙い目かもしれません。
それでも私なら、例えば、2週間後の平日に行くよりは、直近の土日に行くことを選びます。
NHKの日曜美術館でも放送が予定されているようです。どんな展覧会でも、テレビで関連する内容が放映された後は、一層混雑します。そして、会期が進めば進むほど、混雑は激しくなります。
夏休み終了間際、および、会期終了間際は、すごいことになると思います。
どうぞ、お早めに。
また、ネット上で決済してチケットを自宅でプリントするサービスもあります。チケット売り場で並ぶ時間が省けます。価格は現地で買うのと同じです。
(私は、記念に半券を残したいので、利用しませんが。。)
▶ 夏休みの自由研究に美術展鑑賞を利用する方法 「ルーヴル美術館展2013」の場合
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*関連記事:パリの美術館「ルーヴル美術館のまわり方」
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迷路のようなルーブル美術館を、日本語ガイドと一緒に、必見ポイントに絞って見学する現地ツアー。
午前・午後、それぞれ所用は約 3時間、全員イヤホン付き。有名作品(モナリザ、ミロのビーナスなど)はもちろん、隠れた名作も見学します。
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