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ギュスターヴ・モロー 「オルフェウス」Orphée
ギリシア神話「オルフェウス」をテーマにした作品です。
薄明かりの荒野で、美しい女性が佇んでいます。
女性が大事そうに抱えているのは、首と竪琴。
「首」と女性は、向き合い、語り合っているようです。
しかしよく見ると、どちらも目を閉じていて、穏やかに眠っているような表情をしています。
「切られた首を胸に抱く」という異常な事態を描いているにも関わらず、静けさをたたえ、美しささえ感じさせます。
一体、これは何の場面なのか。どのような経緯でこんなことになっているのか。怖いもの見たさにも似た興味をひかれる作品です。
竪琴に乗せられているのは、詩人「オルフェウス」の頭部です。
「オルフェウス」の物語を簡単にご紹介します。
オルフェウスは、吟遊詩人で竪琴の名手です。オルフェウスが歌い、竪琴を奏でると、獣や鳥だけでなく木々や岩までも、彼の周りに集まってしまうほどでした。
ある時、オルフェウスの妻「ユーリディケ」が毒蛇に噛まれて死んでしまいました。
オルフェウスは、ユーリディケを取り戻すために、冥界(あの世)へ出向きます。
本来なら、生者が冥界に入ることはできません。しかし、オルフェウスが哀しみの歌を奏でると、渡し船の船頭も冥界の番犬も、美しい音色に聞き惚れ、オルフェウスを通してしまいました。
冥界の王「ハデス」のもとまで辿り着いたオルフェウスは、竪琴を奏でながら、妻ユーリディケを返して欲しいと嘆願しました。オルフェウスの演奏は、ハデスさえも虜にしました。ハデスは「冥界を出るまで、決して振り返ってはならぬ」という条件つきで、ユーリディケを返すことを許します。
オルフェウスは、ユーリディケを連れ帰ります。しかし、もう少しで冥界から出られるというところまで来たとき、本当にユーリディケが着いて来ているか不安になり、振り返ってしまいました。
ユーリディケは、再び冥界に連れ戻されてしまいました。
以後、オルフェウスは悲しみに暮れて過ごします。
酒の神バッカスの儀式の時に、バッカスの巫女達が、オルフェウスを誘惑しようとしますが、妻を失った悲しみに浸るオルフェウスは、彼女達に見向きもしませんでした。
怒った巫女たちは、オルフェウスを八つ裂きにして、頭部と竪琴を川に投げ込みました。
頭部は歌いながら、竪琴は調べを奏でながら、川を流れていきました。
死んでしまったオルフェウスは、冥界に辿り着き、妻ユーリディケと再開します。
竪琴はゼウス(一説にはアポロンが竪琴を拾ってゼウスに託した)によって、星座(琴座)になりました。
神話を主題とした絵画は、風景や当時の風俗を描いたものよりも、格上とされていました。神話を知っていることを前提に画面が構成されるので、画家にも、鑑賞者にも、その知識が問われたからです。
この作品では、 斜めに呼応する形で、画面の右上に演奏する人々、左下にカメが描かれています。
どちらも、オルフェウスが 音楽と関わりが深いことを表しています。
オルフェウスの竪琴は、音楽の神アポロンから譲り受けたもの。
竪琴は、亀の甲羅に7本の糸を張って作られました。
モローの創作による一場面
オルフェウスの物語には、モローのこの作品に描かれた女性に相当する人物は出てきません。
この場面はモローによる創作で、
「ひとりの若い娘が、トラキアの岸に流れ着いたオルフェウスの首と竪琴を拾い上げた場面」です。
オルフェウスと娘の顔は、どことなく似ています。端正な顔立ちだけでなく、表情も似ています。
まるで、悲しみも苦しみも乗り越えて、心にはもう何も残っていないかのような表情です。
モローは、この顔を描くにあたって、ミケランジェロの「瀕死の奴隷」から霊感を得たとしています。
この写真で、左が「囚われの奴隷」、右が「瀕死の奴隷」です。たしかに、こんな顔してますよ、瀕死の奴隷は。
この二体の奴隷の彫刻は、ミケランジェロが、教皇のお墓の装飾のために創ったものの、度重なる建築計画の縮小によって、結局使われなかった作品です。もー。ミケランジェロ、忙しいんだから、造ってもらったら、使わないと!
ギュスターヴ・モローの魅力が凝縮
ギリシア神話には、憎悪や嫉妬、諍いなど、激しい感情のドラマがありますが、モローの手にかかると、その生々しさが、神秘的で静かな世界に変換されます。
優雅で、美しい世界であり、同時に退廃的で耽美的でもあります。
観ていると、不安に駆られるような幻想的な作品です。
不安になるけど、でもなぜか、ずっと観ていたい。
この「目が離せなくなる感じ」こそが、モロー作品の魅力ではないでしょうか。
「オルフェウス」には、そういったモローならではの魅力が凝縮されていると思います。
オルセー美術館には、数は多くはありませんが、質の高いギュスターヴ・モロー作品が揃っています。
モローのファンの方には、モロー美術館はもちろんですが、ぜひ、オルセー美術館にも足を運んでいただきたいと思います。
神秘的、退廃的な雰囲気は、象徴主義の他の画家にも見られる特徴ですが、モローの場合は不思議と、気持ち悪い感じがしないと思います。行き過ぎてない、というか…。その点で私はモローがとても好きです。
「オルフェウス/Orphée」
ギュスターヴ・モロー/Gustave Moreau
1865年
154.0×99.5cm 油彩
オルセー美術館所蔵
*関連記事:ギュスターヴ・モロー美術館 / オルセー美術館
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