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「貴婦人と一角獣」La Dame à la licorne
「中世美術館/クリュニー美術館」はパリの中心、サン・ミッシェル大通りにあります。所蔵作品の中でも、特に注目したいのは、この作品「貴婦人と一角獣」です。
写真では分かりにくいかもしれませんが、絵画ではなく、タピスリー(タペストリー/織物)です。全部で6張のタピスリーから成るこの作品は、1484〜1500年ころにフランドル地方で織られたものとされています。
この作品専用に円形の部屋が設けられ、壁を囲むように展示されています。真ん中にいくつかベンチがあって、座って鑑賞できるようになっています。作品保護のために、照度はぎりぎりまで落とされています。
6枚のうちの5枚は、人間の五感をテーマにしています。残る1枚が何をあらわすかについては諸説あり、現在も解釈が分かれています。
タピスリーのそれぞれの背景には、猿やうさぎ、木々が描かれ、小さな花が散りばめられています。全体としては謎めいた雰囲気に包まれていますが、愛らしくユーモラスな感じもあります。制作年代が15世紀末という、大変古いものですが、現代に生きる私たちが見ても古さを感じないデザインです。
日本での公開
中世美術館の改装に伴い、このタピスリーは、2013年に日本の美術館で展示されました。 しかも6枚全部!・4月24日〜7月15日 東京(国立新美術館)
・7月27日〜10月20日 大阪(国立国際美術館)
*東京での会期 2日目に展覧会を観てきました。→ 感想文をUPしました(2013.4.16)
*展覧会 公式サイト 『貴婦人と一角獣』」展 |2013年 フランスの至宝、奇跡の初来日!
「貴婦人と一角獣」の注文主は?
全作において基本となる配置は、真ん中に貴婦人、左側にライオン、右側にユニコーンです。「視覚」と「触覚」を除く4枚には、貴婦人のそばに侍女がいます。
ユニコーンとライオンは、盾を身に付け、旗を掲げています。盾と旗の紋章はどれも同じ(赤地に青い斜めのライン、三日月が3つ)です。
紋章から、タピスリーを依頼したのは、リヨン出身のル・ヴィスト(Jean Le Viste)家の頭首であることが分かっています。
ライオンは、出身地のリヨン(Lyon)から。ユニコーンは、極めて足が早いことから、フランス語の「早さ(Vitesse)」が名前の「ヴィスト」と掛け言葉になっていると言われています。
人間の「五感」をあらわす5枚を見てみよう
「触覚/Le toucher」貴婦人が、ユニコーンの長い角に触れています。ユニコーンの角、長っ。 あご髭(?)も長い。ヤギみたい。 |
「味覚/Le goût」フルーツ皿のような、大きなお盆のようなものを侍女がささげ持ち、貴婦人がそこから何かお菓子のようなものをつまんでいます。左手に持ったお菓子を小鳥にあげようとしているようです。ここでもライオンの顔がおかしい。 |
「嗅覚/L'odorat」貴婦人が花を編んでいます。貴婦人のすぐ後ろで、サルがカゴから取り出した花の匂いを嗅いでいます。 常に、ユニコーンとライオンは、対を成して描かれています。ここでは、どちらも貴婦人の手元を見つめています。 ユニコーンもライオンも、かわいくて、じっくり見ているうちに愛着を感じるようになりました。 |
「聴覚/L'ouïe」貴婦人が楽器を奏でています。 オルガンの装飾部分には、ユニコーンとライオンがあしらわれています。 |
「視覚/La vue」貴婦人の持つ手鏡を、ユニコーンが覗き込んでいます。手鏡に映るユニコーン。少し首をかしげるユニコーンの仕草が愛らしいです。手鏡は豪華な装飾が施されています。 そっぽを向いてるライオンも笑える。 |
6枚目「A mon seul désir」我が唯一の望みに
6枚目は、他の5枚と違って、貴婦人が青いテントの前にいます。テントには、「A mon seul désir」と書かれています。
連作の中で、ひとつだけ文字が入った6枚目は、いったい何をテーマにしていたのでしょうか。
実は、諸説あって謎のままです。
・貴婦人が宝石箱を持っていることから、「欲望」を表すのではないか、とする説。
・五感の次にくるもの、つまり「第六感」を表すのではないか、とする説。
・「我が唯一の望みに」という文言から、「愛」や「平和」などの理念を描いているのはないか、という説。
・ユニコーンの角は男性の象徴、ユニコーンに近づけるのは処女だけ、との言い伝えがあることから、
「処女性」あるいは「結婚」を意味しているのはないか、という説。
「A mon seul désir」は、 日本語では「我が唯一の望みに」とやや意訳的に表現されることが多いです。
微妙ですが、「désir」をどう解釈するかで、6枚目のタピスリーの意味するものが変わってきます。また、「seul」/〜だけ」を「唯一の望み」ととるか、「望みのためだけ」ととるかによっても変わってきます。
6枚目では、貴婦人は豪華な首飾りを手にしています。
「五感」に出てくる貴婦人は、全て首飾りを着けています。
首飾りを
宝石箱から取り出し、今から身に着けようとしていると言う説と、外した首飾りを宝石箱にしまおうとしているところだとする説があります。
今から首飾りを身に付けるところだすると、これが連作の一枚目だと思われますし、宝石箱にしまうのだとすれば、「これにて終わり」といった感があります。
中世美術館の見解としては、この場面は宝石箱に首飾りをしまうところ、つまり6枚目が連作の最終作としています。「désir」は、「望み」というより「意思」です。
「五感」を象徴的にあらわす首飾りを納めることで、意思の力を表現する、という解釈のようです。
【 私の疑問… 】
この6枚に登場する貴婦人は、ドレスと髪型は完全に違います。顔だちも違うように見えるので、全部違う人物だと思います。
同じ女性を描いた一連の流れであれば、「今から首飾りをつけるのか、外したところなのか」が重要になるかもしれませんが、違う女性だとしたら、あまりそこは問題ではないような気がするのです…。首飾りも全員違うものみたいだし。
2013.4月(追記)
国立新美術館(東京・六本木)で開催中の展覧会での音声ガイドの内容によると、それぞれ違う衣装を身につけていますが、全て同じ女性とのこと。髪型や衣装は、当時の流行を反映してさまざまな形にしているようです。
詳細は、感想文にて。
視覚 | 味覚 | 聴覚 |
嗅覚 | 触覚 | 我が望み |
結局のところ、よく分からない、という謎めいたところが最大の魅力になっていると思います。
あれこれと考える楽しみがありますから。
*6種類の、もう少し大きめの画像をブログにUPしました。
このページは既に画像を貼りすぎて重いので…。ブログ:パリ旅行準備室「クリュニー中世美術館」
この一連のタピスリーは、19世紀の画家・ギュスターヴ・モローが、大変気に入っていたことでも知られています。「まるで女性だけが集まった魅惑的な島のようだ。造形的芸術に最も貴い口実を与えてくれる島」(モロー談)。
ギュスターヴ・モロー美術館に行くと、このタピスリーから霊感を受けたであろうと思われる作品がいくつか見られます。
*参考記事:パリの美術館「ギュスターヴ・モロー美術館」
*関連する記事:パリの美術館「クリュニー中世美術館」 / レビュー「貴婦人と一角獣展」を見て
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