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ヴェロネーゼ作「カナの婚礼」 Les Noces de Cana

イタリア・ルネサンス後期の画家「ヴェロネーゼ」の作品です。
ルーヴル美術館の中で、最も大きな絵画です。

作品のテーマは、新約聖書の一場面です。「カナ」とは地名で、イエス・キリストが育った街「ナザレ」の北に位置します。「カナ」の地で開かれた結婚式に出席したイエスが、水をワインに変えるという奇跡を見せた場面です。

カナの婚礼

「カナの婚礼 / Les Noces de Cana」 ヴェロネーゼ/Paolo Veronese
<ドゥノン翼・2階> 1562-1563年頃


祝宴や食事の様子をテーマにした宗教画は、修道院などの食堂を飾るのにふさわしいと考えられていました。
この作品「カナの婚礼」も、ヴェネツィアのサン・ジョルジョ・マッジョーレ修道院の大食堂を飾るために、発注されたものです。壁を覆うために、サイズも指定されていました。


新約聖書の中の「カナの婚礼」

「カナの婚礼」の場面は、ヨハネの福音書に書かれています。
・イエスと母マリアが直接的に会話を交わす数少ない場面の一つであること。
・イエスが人前で最初の奇跡を見せたこと。
・この奇跡によって、弟子達はイエスが神の子であると信じるようになったこと。

以上の点から、聖書の中でも重要な場面とされています。


「ヨハネによる福音書2:1-12」から:該当部分のあらすじ

ガリラヤのカナでの婚礼に、イエスと母マリア、イエスの弟子たちが招かれていました。

宴会の途中でぶどう酒が足りなくなると、母マリアはイエスに「ぶどう酒がなくなりました」と言いました。
イエスは、母マリアに「婦人よ、私とどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません」 と応えました。しかし、母マリアは、召使い達に「この人が何か言ったら、その言いつけにならってください」と言いました。

そこには、石で出来た大きな水がめがありました。イエスが「水がめにいっぱいに水を入れなさい」と言うと、召使い達はそのとおりにしました。イエスは、「それを汲んで、宴会の世話役へ持って行きなさい」と言いました。

世話役は、ぶどう酒に変化した水を味見しました。世話役は、このぶどう酒がどこから来たのか知りません。世話役は、花婿に言いました。「誰でも、宴の初めのうちに良いぶどう酒を出し、皆が酔った頃には質の劣るぶどう酒を出すものです。しかしあなたは、良いぶどう酒を今まで取っておかれたのですね。」


イエスは、この最初のしるしを行い、栄光をあらわされました。このことによって、弟子たちはイエスを信じました。



イスラエルには、「葡萄酒がないなら喜びもない」という表現があるそうです。普段から人々はよく葡萄酒を飲んでいましたが、人の集まる席、それも結婚式ともなれば、葡萄酒は不可欠でした。

一週間ほど続く婚礼の途中で、葡萄酒がなくなってしまいます。それはあってはならない事態であり、招待する側にとって、大変恥ずかしいことでした。

マリアは、イエスがただの人間ではないことを、受胎告知の時から知っています。そこで、このピンチをなんとかして欲しいと暗に告げるのですが、イエスは、母に対して「婦人よ」と他人行儀に呼びかけ、「自分には関係ない、自分が出て行く時はまだ来ていない」と返答します。

しかし、結果的には、石がめの大量の水を上質なワインに変えて見せました。

 

作者「ヴェロネーゼ」とは

カナの婚礼

ヴェロネーゼは、本名を「パオロ・カリアーリ/Paolo Caliari」と言いますが、出身地の地名から「ヴェローナの人」という意味の通称「ヴェロネーゼ」で通っています。

ヴェロネーゼが活躍したのは、1500年代の中頃。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロより、少し後になります。
イタリア・ルネサンスの中でも、ヴェロネーゼを含む「ヴェネチア派」と呼ばれる画家たちは、色彩表現の豊かさが特徴です。


「カナの婚礼」も、豊かな色使いで鮮やかに描かれています。多くの「宗教画」に見られる厳粛な雰囲気はあまり感じらず、にぎやかな祝賀的ムードに満ちています。


ヴェロネーゼの色彩は、19世紀以降のフランスの画家たち(特に色彩表現を重視したロマン主義以降)に影響を与えることになります。

*ロマン派代表・ドラクロワ談:「ヴェロネーゼが作り出した、強いコントラストによらない光の表現によって、従来不可能と言われていたが、影の部分でも色相の強さを維持することができた。」



「カナの婚礼」はルーヴル美術館で一番大きな絵

「カナの婚礼」の大きさは、縦6.66m、横9.9m。平米数になおすと66㎡です。
ルーヴル美術館には巨大な絵画が多数ありますが、展示されている全ての作品の中で、最大の大きさです。

ルーヴルで2番目に大きい「ナポレオン一世の戴冠式」(6.3×9.3m)を若干上まわっています。このサイズになると、感覚としては、絵というより「壁画」です。実際、大食堂の壁を覆うことを前提に制作したということなので、壁画のように思えるのも当然かもしれません。

参考に、「モナリザ」との大きさを比較してみます。 同じ比率で縮小していくと、このような対比になります。

カナの婚礼のサイズ

ヴェネチアに返還されなかった絵

「カナの婚礼」は、1797年、ナポレオン軍の北イタリア侵攻の勝利によって接収されました。額からはずし、ぐるぐると丸められ、丸太のようにして、マルセイユを経由してパリまで船で運ばれたそうです。


ナポレオン失脚後、交渉によって幾つかの芸術作品がもとの所有国に返還されましたが、「カナの婚礼」はルーヴルに残りました。フランスが返還を拒んだ理由は、「大き過ぎて返すのが大変だから」「額からまた外さないといけないし、作品が痛んじゃうかもよ?」ということです。

当時フランスは、同じくヴェロネーゼ作の「レビ家の饗宴」(12.8m×5.55m)という「カナの婚礼」よりもさらに大きい作品は返還に同意しています。ですから「大きいから返せない」ということはなかったはずですが、イタリアもなぜかそれに納得。といっても、心から納得してはいなかったのかもしれませんが、「代わりに何か他の作品を送ってくれれば、カナは返還しなくて良し」ということで決着しました。

この件について調べていると、「作品の返還よりも、保護を優先させた」という、美術大国イタリア vs フランスならではの寛大なやりとりだったという見解が多数見られます。
しかし、当時ヴェネツィアは絵画の市場において他にもたくさんの案件をかかえていて、「カナの婚礼」だけにこだわっていられなかったという事情もあり、実は「もう、どっちでもよかったらしい」という興味深い記述も出て来ます。

真相はどうだったのか。どちらの要素もあったと思われますが、とにかく、フランスがカナを手放したくなかったことは確実です。

 

ちなみに、返還に応じた「レビ家の饗宴」も、ヴェロネーゼの代表作のひとつ。「最後の晩餐」をテーマに制作したにも関わらず、あまりに世俗的すぎてクレームがつき、「最後の晩餐」から「レビ家の饗宴」へタイトル変更、つまりテーマが違うものとして、異端審問を乗り切ったという逸話のある作品です。
こっちも返したくなかったんじゃないのかな…と思うのですが。
「レビ家の饗宴」はアカデミア美術館(ヴェネツィア)に所蔵・展示され、多くの鑑賞者を集めています。


カナをルーヴルに残す代わりに差し出されたのは、シャルル・ルブラン作「シモン家の饗宴」です。ルブランは、ルイ14世の宮廷画家でした。ヴェルサイユ宮殿にいくと、ルブランの名をたくさん目にします(天井の装飾等を行っています)。

「シモン家の饗宴」は、アカデミア美術館所蔵となりましたが、展示はされていないようです。



「カナの婚礼」に描かれる時代の空気と宗教的暗示

「カナの婚礼」では、この時代のヴェネチアの繁栄した世相が伺えます。

ヴェロネーゼ独特の鮮やかな色使いもあって、宗教画らしさに欠ける作品とも言われますが、細かく見ていくと、宗教的要素もきちんと押さえられていることが分かります。

 

カナの婚礼作品中には、人物が130人ほど描かれています。

画面のほぼ真ん中に座っている男性がイエス、その左側がマリアです。二人には後光が射しています。
ほとんどの人物が華やかな当世風の衣装を着ている中で、イエスとマリアは、質素な服装で描かれています。
イエスの頭上では、数人が肉を切り分けています。肉は子羊で、後のイエスの受難を示します。


カナの婚礼石の水がめから、ワインが注がれています。ワインを注ぐ召使いの横で、豪華な衣装を着て、ワイングラスをしげしげと眺めている男性が、宴会の世話役です。ワインを味見して、いいワインだな〜と感心しているところ。

鑑賞者は、イエスが行った奇跡を見ることになります。

カナの婚礼新郎新婦は、宴席の中心ではなく、画面左端にいます。召使いからワイングラスを受け取ろうとしているのが新郎です。実際の婚礼で、新郎新婦がこのような席に着くことはありません。
しかし作中では、聖書の中と同様にイエスとマリアが中心となっています。

カナの婚礼結婚式らしく、食べる人、飲む人、楽器を演奏する人、と賑やかです。
イエスの手前で演奏している音楽家として描かれているのは、当時の画家たちです。白い服で弦楽器を演奏している人物はヴェロネーゼ自身、向かいの赤い服の人物はティツィアーノと言われています。

演奏家の間に置かれた砂時計は、「私の時はまだ来ていない」というイエスの言葉を暗示します。


カナの婚礼の展示場所

展示されている場所はルーヴル美術館ドゥノン翼2階の「モナリザ」と同じ展示室です。モナリザの反対側に向かい合うように展示されています。

あまり注目しないで去って行く人が多いのは、どうしても「モナリザ」だけに注意を向けてしまうせいかもしれません。壁の一部のようになっているので、絵として認識していない人も大勢いそうです。

しかし、せっかくルーヴルに行く機会を得た人には、「カナの婚礼」も、ぜひじっくり観てきて欲しいと思います。
仮に、例えば今後「ルーヴル美術館展」のような展覧会をどこか日本の美術館が実施したとしても、この巨大な作品が来日することはおそらくないだろうと思います。現地でしか鑑賞できない作品と言ってよいでしょう。

「ルーヴルで一番大きい絵」というだけでも、見る価値充分だと思います。


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