ギュスターヴ・モロー美術館

最寄り駅のメトロ12号線トリニテ駅からは、歩いて5分ほどの距離にあります。

ごく緩い坂になった通りを進みます。両側にはお店が並ぶ通りです。交差点などの要所には、美術館の方向を示す標識があるので、迷うことはないはずです。
角を曲がると急に勾配がきつくなります。

ギュスターヴ・モローの美術館は、その坂道の途中、住宅に混じって急にあらわれます。

この美術館は、モローが晩年までを過ごした住居兼アトリエだった建物です。そのため、いかにも美術館という外観ではなく、掲げられたフラッグによって辛うじて、ここがモローの美術館であることが分かります。目指して来ている人以外は、美術館と気づかずに通り過ぎてしまうだろうと思います。

1階でチケットを購入し、ごく簡単なセキュリティチェックを受けたら、階上の展示室へ向かいます。2階と3階が展示室で、2階の居室だった部分も公開されています。

ギュスターヴ・モロー美術館の館内の様子

展示室に入ると、くすんだオレンジ色の壁面を埋め尽くす作品群に圧倒されます。
それぞれ大きさの違う作品が、まるでパズルのように巧妙に組み合わされています。

これら全てがモローの作品! モロー好きには、たまらない空間です。
個人の美術館ならではの、濃密な雰囲気に満ちています。

この展示方法は、初めて見る人は少し驚くかもしれませんが、19世紀頃にはよく見られたスタイルです。

当時の資料にあたっていると、官展(サロン)での作品展示もこのような方式だったことがうかがえます。限られた空間で、大量の作品を展示するのに効率が良いという実利的な面もありました。

作品以外で展示室内で目につくのは、美しい螺旋階段です。 さりげなく座っているのは係員さん。

この写真は、螺旋階段の踊り場から2階展示室を見下ろした様子です。
鑑賞目的の階段なのかと思ったら、実際に、2階と3階を行き来するために使われています 。

展示室の各階に、このような箱があります。白いシートが見えます。

中身は作品の解説です。日本人の観光客も多いため、日本語の解説もあります。音声ガイドなどはありませんが、これで主要作品の概要は分かります。

正式名称が分からないのですが、この四角い家具のようなものにもたくさんの作品が収納されています。 場所を取らず、大量の小品を納めることができる、画期的なものです!

扉そのものが展示パネルになっていて、順に開いていくと、一枚づつ習作やデッサンなどを見ることができます。室内に丸イスが置いてあるので、イスを持って来てパネルの前に腰かけ、長い時間をかけて見ました。至福のひとときでした。
他の見学者も同じような感じで長々と鑑賞しているので、浮くことはありません。

壁際の棚にもたくさんの習作があります。じっくり見ていたら、よく知っている作品の下絵を発見!!

完成作の「ヘシオドスとミューズ」は、オルセー美術館に展示されています。私はこの作品が大好き。まさか習作を見られるとは!

これらは一例で、他にもモローの美術館内にある完成作品の部分習作や、有名作品の構想を練っていたとおぼしき下絵など、丹念に見ていくと、面白いものが色々と出てきます。

好きな人は、何時間でも居られると思います。自分の好きな作品の習作などを見つけると、妙に嬉しくなりますよ!

ルーヴル美術館などでは、小学生のグループが引率の先生から説明を受けている様子をよく見かけます。

この時は、中学生か高校生くらいの、けっこう年代が上の子たちが、活発にディスカッションしてました。何の学習なのか気になりますね。

3階展示室に上がったところです。基本的に2階と同じような展示方法です。決して広くはないですが、作品数は、多いです。

モローの、比較的若い頃の自画像です。

2階の奥には、居室部分があります。見学できない日もあり、できる日も時間がまちまちで、いまいちルールがはっきりしません(基本はいつでもできると思うのですが…)。運が良ければ(!)居室の見学が出来ます。

部屋は複数あります。左側の写真が、手前の部屋。壁には版画や複製画が多数かけられています。よく見ると、知っている作品が見つかるかもしれません。モローは生前から成功をおさめていたので、売却されて手元に置くことが出来なかった自作の複製画などを掛けていました。また、ラファエロやシャセリオーといったモローが敬愛していた画家の作品写真などもあります。
右の写真、東洋の置物があるのが奥の部屋です。モローが特別に日本好きというより、この時代の芸術家の多くが、日本的なものに興味を持っていたようです。

パリには、芸術家個人の美術館がいくつかあります。その中で、最もマニアックというか、コアなファンを集めているのが、ギュスターヴ・モロー美術館ではないかと思います。

例えば、ピカソやロダンの美術館には、そこまでピカソ好き・ロダン好きでなくとも、ちょっと行ってみよう、という人はいると思うのです。実際、団体客なども見かけますし。

しかし、モローの美術館に来ている人は、おそらく皆、心底モローが好きだという気がします。ここを見るためにパリに来ました!という人も一定数 居るでしょう。ある絵の前でなかなか動かないとか、やっと動いたと思ったら、戻って来てまた同じ絵を眺めてるとか、あなた本当にその絵が好きなのね!みたいな状態の人が非常に多いです。

モローの画風は、万人に受け入れられるものではないかもしれませんが、そのかわり、いったん好きになった人をとことん夢中にさせる磁力を秘めていると思います。はるばる日本から、アトリエを訪れに来る人がたくさんいるんだもの。

私はこれまでに4回、モローの美術館に行っています。すでに何があるか分かってるのに、パリに居るからには行かねばなるまい、と思う場所です。
それに加えて、今ここにいる人たちは、みんなモローが大好きなんだろうなと思うと、一種の連帯感というか、国境を超えた仲間意識みたいなものまで感じられて、なんだか居心地が良いのです。皆さんと同じく、モロー🩷ので、私も…。

ギュスターヴ・モロー美術館の主な作品

「レダと白鳥」

ギリシア神話テーマでよく絵画に描かれるテーマ。最高神ゼウスが白鳥の姿になって人妻レダのもとに現れ、誘惑するという性愛をテーマにした作品。男女間の性そのものを描くことがタブーだったことも一要因とされますが、だからって白鳥との性愛…。

「出現」

代表作のひとつ「出現」です。バージョン違いで何作かあるうち、油彩作品がここにあります。上手に踊れた褒美に何が欲しいかと問われたサロメが洗礼者ヨハネの首を所望したという新約聖書のエピソードが題材。空中に首が浮かぶのは、モローの演出的表現。

出現の部分拡大

「サロメがヨハネの首を所望した」のは聖書の一場面なので、これ以前にも大勢の画家が題材にしていました。しかし中でも、モローのサロメはあまりにも斬新。オスカー・ワイルドをはじめ、ジャンルを超えて、後世の芸術家に霊感を与えることになります。

「出現」には、細部の違う作品がいくつかあります。美術書では、「出現」の所蔵元として「ルーヴル美術館」または「オルセー美術館」と記載されていることが多いのですが(実際は、オルセー所蔵)、これは水彩画。モローの美術館にあるのは油彩です。水彩バージョンは、劣化が懸念されることから、通常は展示されていません。ですが、何かのテーマにもとづく企画展などで、一次的に見られることがあります。
私は、たまたまですが、オルセー美術館に行ったときに、企画展で水彩バージョンを見ることができました。私のメルマガ読者のMさまは、オランジェリーの企画展でご覧になったと教えてくださいました。
あなたも、運が良ければ、どこかで見られるかも? 油彩版よりも、より細密で美しかったです!

「一角獣と貴婦人」

3頭のユニコーンが貴婦人に寄り添っています。モローは中世美術館にある有名なあのタペストリーに着想を得てこの作品を描きました。貴婦人の衣装、ユニコーンが見せる表情など、細部まで繊細で美しい作品です。

「ジュピターとセメレ」

最晩年の傑作と言われる作品。神ジュピター(つまりゼウス)と人間の娘セメレ。雷に打たれるセメレの脇腹から、ディオニソス(酒の神)が産み落とされています。ものすごく複雑な画面構成。モローはこの時、70歳手前でした。

「テスピウスと娘たち」

ライオンを退治したヘラクレスと、これから子孫を残そうとする50人の女性を描いた作品です。これもギリシア神話がテーマです。神話の奥深さを感じますよ…。

「神秘の花」

巨大なユリを玉座に、十字架を携えた聖母マリアがたたずんでいます。ユリは殉教者の身体が折り重なった塚から生えています。ギリシア神話と並んで、聖母マリア信仰と関わる作品も多いです。

「グリフォンと妖精」

発光するかのように美しい肌をした妖精と幻の生物グリフォン。グリフォンは体が獅子、頭と翼は鷲の幻獣。こういう不思議な世界を描くのにぴったりの芸風ですね…。

「プロメテウス」

火を人間に与えたことで最高神ゼウスの怒りを買い、毎日肝臓を鷲に食べられる刑に!すごいなぁ、そんな刑があるなんて。ギリシア神話の世界は…。

ギュスターヴ・モロー美術館 情報

モロー美術館の入場チケットです。
館内に展示されている中でも人気の高い作品「一角獣と貴婦人」の一部がデザインされた美しいチケットです。
私は、これが欲しいために、あえてパリ・ミュージアムパスを使わずにチケットを買って入場するくらいです。
ところで、入場料 5ユーロって、いくらなんでも安過ぎると思いませんか。安過ぎですよ、どう考えても…。

館内入口のところで販売している図録です。こちらは「グリフォンと妖精」が表紙になっています。作品解説書というより、美術館全体の解説になっています。作品解説も含まれますが、モローの経歴や、アパルトマンの説明なども載っています。

作品について、これは出来が良くない、など率直な意見が書かれていて面白いです(翻訳のせいもあるかもしれませんが)。
純粋に読み物としても面白いので、パリの美術館まで行かれた方は、購入してくると良いと思います。厚さは1.3cmくらい。図録にしては薄いほうです。
他にポストカードなども売っています。

最後のおまけ情報。
最寄り駅であるメトロのトリニテ駅(本当の名前は長い:Trinit d’Estienne d’Orves駅)を出ると、大きな教会が目に入ると思います。
「トリニテ教会」です。ここでモローの葬儀が行われました。(ちなみにモローのお墓はモンマルトル墓地にあります。)

モローの作品は、モロー美術館以外では、オルセー美術館でいくつか鑑賞できます。モロー美術館で見たようなスケッチなどはありませんが、数は少ないながら、完成度の高い作品が集結していますので、好きな方はオルセーにも行った方がいいでしょう。

ギュスターヴ・モロー美術館 Musée national Gustave Moreau

最寄り駅 メトロ12号線 Trinit d’Estienne d’Orves
オープン 月・水・木:10:00〜12:45 14:00〜17:15 昼休みあり
     金・土・日:10:00〜17:15
休館 火曜日 1/1 5/1 12/25
入場料 5ユーロ
住所 14, rue de La Rochefoucauld F-75009 PARIS
URL https://musee-moreau.fr/fr
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執筆:内田ユミ