パリの人たちはよく、ものを食べながら歩いている。
観光スポット的なところで、アイスクリームやクレープを食べる感覚はなんとなく理解できる。だが、そういった特定の場所に限らず、一般道や地下鉄のホームなどでも何かを食べている人を頻繁に見かける。
男女問わず。老いも若きも。
食べているものは、パンか果物が多いようだ。
パン派の人たちが食べているのは、たいていサンドイッチである。パリのサンドイッチは、基本的にバゲットが使われている。たくさん具の挟まった、大きくて硬いパンをかじりながら歩くのは、さぞ難しいだろうと思うのだが、皆、別段困難そうな様子も見せずにバゲットに噛み付きながら、すたすたと早足で歩いている。
サンドイッチは、街なかの至る所で買うことができる。
私も昼時にサンドイッチを買うことが度々あったが、常に公園などに行きベンチを探して、落ち着いてから食べるようにしていた。
ゆっくりと美味しいパンを味わって食べたいからなのだが、慎重に食べたいという理由もあった。硬くてパリパリのバゲットを不用意に思いっきりかじると、上あごの前歯の後ろのところをパンで切ってしまうのである。
バケットのサンドイッチをかじりながら歩けたら、私も一人前かもしれない。
果物派の人たちがよく食べているのは、バナナかリンゴである。
ある時、メトロでの移動中、座席に座っていると、何かの匂いが漂ってきた。何の香料だろう?と思いながら何気なく周りを見たら、通路を挟んで反対側の向かいの席で、大変美しくてカッコいいお姉さまが、バナナを食べていた。そのルックスでメトロでバナナですか……と、目が釘付けになった。
食べ終わったら、皮はどうするんでしょうか? その素敵なバッグに入れちゃうの? それとも床にポイ? と気になって、バナナを食べる美女をさりげなく見守っていた。
美しいうえに、スタイルもとても良さそうである。立ち上がったら、身長は180cm近くありそうだ。長い脚を斜めにして、窮屈そうに狭いシートに身を沈めている。
食べ終わるのとほぼ同時に着いた駅で彼女は降りると、ホームのゴミ箱にバナナの皮を捨てた。
なんだか ほっとした。
立ち上がった彼女は、予想通りのスタイルだった。ウエストは両手でつかめそうに細かった。バナナの皮を捨てると、ストレートの金髪をなびかせ、メトロの乗り換え口に颯爽と消えていった。
ステキだった。モデルみたいだった…というより、きっとモデルに違いない。
時期的にパリコレのモデルだった可能性もある。
日本でも食べながら歩く人がいないわけではないが、それは高校生など、若い人に多いと思う。そして、彼らも実際にものを口にいれている間は、コンビ二の前やホームの地面などに座っているような気がする。
日本では子供の頃に「食べながら歩くのはお行儀が悪い」と教わるが、そういう感覚はこちらの人たちにはないのかもしれない。
モデルさんもバナナを食べながら歩く街、それがパリである。
おまけ日記
ある日のお昼時。
日本のヤマザキパンのお店をみつけたので、サンドイッチを購入。「Yamazaki」の下に「TOKYO-PARIS」と書いてあります。
日本で定番の薄切りパンの三角サンドもありましたが、パリモードにスイッチ入ってるので、バゲットのサンドイッチを選択。 中身はパテ。すり身です。
天気も良かったので、公園で。
気持ちのよいお天気。
歩きながらこれを食べると口の中が切れるし、
何より落ち着かない。
食べた気がしない…。
スイッチ入ってても、パリジェンヌにはなれぬ。