初めてのパリ(タクシーでパリ市内まで)

初めてのパリ旅行。
それは私にとって、初めての海外一人旅でもあった。ホテルと航空券だけがセットになった格安ツアーを申し込んだ。

それ以前は、海外旅行といえば添乗員付きのパックツアーしか経験していなかったので、初めてのパリで、しかも初めての一人旅は、かなりの緊張と不安を感じるものだった。

もし今ツアーに申し込むならば、フライトの時刻も入念にチェックして、希望の時間に現地に着けるようなプランを探すのだが、その時は、そんなことは全く考えていなかった。私が利用することになったのは、早朝4時半にシャルル・ド・ゴール空港に着く便だった。

申し込みの時点で、「早朝4時半に現地に着く」ということがどういうことを意味するのか、実は私はあまりよく理解できていなかった。ただ旅行会社の担当者から勧められるままに「アーリーチェックイン」というオプションを付けることにした。

ホテルへは午後2時とか3時になってからチェックインするのが通例だが、このプランを使うと朝からチェックインできて、現地に着いたら午後まで待たずに部屋を使えるという。

早朝4時半にシャルル・ド・ゴール空港につき、スーツケースをピックアップして、トイレで軽く身支度を調えてもやっと5時。公共の機関(バス等)が動き出すまでにはまだ時間がある。ホテルに着けばチェックイン出来ることなっているのだから、私はタクシーでホテルまで向かおうと決めていた。まだ薄暗い空港の中をスーツケースを引いて、タクシー乗り場を探した。

タクシー乗り場の付近まで行き着くと、運転手さんらしきおじさん達が何人か乗り場に出て待機していた。私を見つけると、「こっちこっち!」と言うように呼び寄せ、先頭に停まっていた車のトランクに荷物を積んでくれた。

私は用意してきたホテルの住所を書いた紙を取り出し、「S’il vous plaît!」と言いながら差し出した。おじさん達はその紙を覗き込み、何か話していた。だぶん「これはあの辺だ!」などと、場所について話していたのだと思う。私は後ろの席に乗るように促された。そして、おじさん達の中の一人が運転席に座り、車は走り出した。

ぐるりと高速のターミナルを抜けて、直線に入る。
ようやく明るくなってきた。まわりは緑が多く、所々に何か工場のような建物や、企業の看板のついた大きな建物が見える。当たり前だが、看板はどれもフランス語。でも中には知っている企業の看板もあった。

やがて車はパリ市内に入った。

石作りの建物が並ぶ街並みは、これまでガイドブックやインターネットで見てきた通りの風景だった。タクシーは、背の高い街路樹の間を走り抜けて行く。通りの案内板や、閉まっているお店のウィンドウや、流れ去る全ての景色に心が躍った。

本当にパリに来たんだ!
わくわくする気持ちで、長時間のフライトの疲れも完全にどこかへ行ってしまった。

ホテルの前に到着し 支払いを済ませると、運転手さんは、スーツケースをトランクからおろしてくれた。そして、ホテルはここか?と確認するように、もう一度最初に私が渡した紙を見直してから、ホテルの入り口を探してくれた。

早朝のためか、正面の入り口は閉まっている。脇にまわって、隣のホテルとの間を行ったり来たりした後、インターフォンを探し出し、中の人を呼び出してくれた。そして出て来たホテルのスタッフと幾つか言葉を交わして、私をスタッフに引き渡してから「Bon voyage!」とクールに言って、去って行った。

その時は、それがあまりにも自然な流れだったので、何の感慨も持たなかったのだが、後になってこの最初の朝の出来事を思い出す時、私は感謝の気持ちで一杯になる。

運転手さんがホテルの入り口を探す間、私はスーツケースのバーを握りしめ、彼の動きを見守りながら ただその場に立ち尽くしていた。今 考えれば、運転手さんはタクシーから私を降ろしたら、そのまま立ち去ってしまうこともできたはずである。

もしそうであったなら、早朝の、 誰も人が通らない、初めて来た外国の街角で、私は途方に暮れたことだろう。最終的には、運転手さんが見つけたそのインターフォンを私もどうにか見つけ出し、中にいるスタッフと話して出てきてもらうようにしたかもしれない。だが、あの時の私にとって、それはとてつもなく高いハードルだったはずだ。

フランス人は不親切だとか、愛想がない、冷たい、などの評判を聞くことがある。
しかし私は、フランス人に対してマイナスの印象を全く持っていない。少しシャイで、ぶっきらぼうではあるかもしれないが、実は優しくて親切な人が多いと思っている。

私がこんなにも特別にフランス贔屓なのは、初めてのパリで、初めて接したフランス人に、ごく当たり前のように親切に対応してもらったからかもしれない。

【注意!】海外での深夜・早朝の移動は特に危険が伴います。移動方法は複数存在します。少しでも不安要素があるようでしたら、強行せず、より安全な方法を取るようにして下さい。走行中のタクシーを狙う事例も報告されています。情報を集めて、充分に身を守ってください。

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